増刊号 新日ドームは最低でした


 年末の猪木祭と年始の新日ドーム大会は連動せざるを得ない関係にありました。猪木祭が結果的に最高の興行になったことで新日のドーム大会は割を食ってしまった感はあります。ただ、割を食っただけでは済まされないもははありました。はっきり言って最低の興行でした。
 まず試合前のワクワクするような期待感が今の新日にはありません。他団体の秋山を目玉にするのが気に入らないし、秋山の言いなりになってジョー樋口を呼んだり、GHCのテーマを流したり、IWGP王座決定トーナメントの開催を取りやめたりするのが気に入りません。迎え撃つ新日代表がミルコに秒殺された永田では興ざめです。もう1つの目玉である小川も猪木祭不参加で評価を下げました。これでは期待が膨らむはずがありません。
 試合直前の会場の雰囲気も同じでまったく盛り上がりません。会場にいるのは、期待はしてないけど惰性で見つづけてしまっている昔からの新日ファンとただイベントを楽しむために来ている一見の客という気がします。新日がそういう一般のお客さんを集めてイベントをやっていくのに徹するならば、こちらとしては切り捨てるだけですが、小川を出してみたりして闘いを見せるという素振りを中途半端に見せるものだから惰性で見つづけるという結果になります。ここ数年の新日は見捨てかけ、少し期待してみては裏切られの連続でしたが、今回もまた見事に裏切ってくれました。
 試合が始まってもだらけた空気のまま淡々と3試合が進みました。成瀬と垣原のU系タッグ結成も、金本と田中の宿命対決も会場に火を点けるまでには至りませんでした。第3試合で村上がキック一発で棚橋を沈めたシーンで少し盛り上がりました。続く第4試合のライガー&サスケ&タイガーマスク対邪道&外道&東郷という豪華な顔合わせとドームにも映える派手な空中戦でまた少し沸きました。ドームでもその大きさが充分伝わる大巨人シルバと中西の対戦にも少し沸きました。シルバとシンのでかさは大変な魅力です。ただ、今回が中西というトップクラスとのシングル初対決でしたが、結果はリングアウトで、勝負ということを考えるととても使い方が難しいと思います。リングアウト決着にはブーイングが起きていましたし、いつまでもこんなことはやっていられないでしょう。今の新日に大巨人コンビをうまく使いこなす素養があるかどうか疑問です。
 休憩を挟んで、来ないと思っていた猪木の登場で会場は一気に盛り上がりました。藤田、安田も登場したこの場面がこの日の頂点でした。さすがは猪木ともいえますが、新日がそれだけだらしないということでしょう。続く第6試合はカシン対松井のIWGPジュニア戦です。カシンの猪木祭での評価は微妙なところですが、負けなかったことと攻めていたことで、猪木軍のピンチに急遽出場を決めた男気を考慮して、まあ良しというところでしょう。だからドームでのカシンのプロレスに期待していました。取った作戦は松井が不慣れな3カウントを狙うというものでした。作戦としては的を得ているのでしょうが、見る側としては少し物足りなかった気がします。
 第7試合は武藤&馳対藤波&西村です。もっと地味な試合になるかと思っていましたが、それなりに動きがあり、いい試合でした。華やかさという点では武藤は間違いなく一級品です。
 さて、問題の第8試合です。小川対健介には期待していました。そして見事に裏切られました。今回は健介は悪くないでしょう。一番悪いのは真っ先にリングに上がった中西です。そしてそうしてセコンドがもみ合うことが分かっているのに何の対策も講じなかった新日です。セミ前にもってきたのが対策なのでしょうが、それはつまり初めから結末が混乱することが分かっていて、すっきりした決着を着けさせるための対策は何もせず、ただメインのGHC戦に影響が出ないようにしたというだけです。小川もこれまでは暴走振りも支持して来ましたが、あんな状態で帰ってしまったことに失望しました。ましてや猪木祭に出ずに出た試合がこれでは、評価はガタ落ちです。逃げていると思われても仕方がありません。
 私にとってはこれでこの日の興行は終わりました。セミの最初では残っていたブーイングも、天山へのシーコール、小島への「いっちゃうぞバカヤロー」の合唱へと変わっていってしまった観客の心理が私には理解出来ませんでした。昔なら暴動ものです。やはりそれだけ熱い思いを持ったファンはもう会場には来ていないということでしょう。T2000ショー劇場も、GHC戦もそれなりにやっていたようですが、私の気持ちは切れてしまいましたから何の感想もありません。
 せっかく猪木祭で最高の年越しが出来たのに新年早々、最低の気分にさせられました。今年も新日には期待できそうもありません。新日がダメということはプロレス界がダメということなのでプロレスファンにとってはまたしても困難な1年になりそうです。猪木も口だけでなく本当に新日をぶっ壊してくれませんかね。武藤が何人か引き連れて完全に全日に移ってしまうとか。橋本でもノアでもいいのですが、新日の中途半端な一人勝ち状態を壊さないとプロレス界の未来はないという気がします。
Vol.74 まさかの勝利、安田が締めた2001年

 「INOKI BOM−BA−YE」は素晴らしかったです。ここ数年でのベスト興行でした。すべてが良かったわけではありません。猪木の特徴でもありますが試合前の一連のゴタゴタは良くないと思います。カード発表も遅かったし、直前の変更もありました。褒められたことではありません。高田の消極ファイトに始まり、前半戦の4連続ドローにはうんざりしたし、永田には失望しました。しかし、それらをすべて消し去ってくれたのがまさかまさかの安田の感動の勝利でした。あの瞬間の空間はプロレスファンにしか味わえない素晴らしいものでした。試合直後にも急いで感想をUPしましたが、少し時間がたって落ち着いたところで書き直しましたので読んでやって下さい。
 猪木軍対K−1は石井館長の「バンナを藤田か小川と闘わせてみたい」という一言から始まりました。対して猪木は「おもしれえ。どうせなら対抗戦でもやったらいいじゃない」と応じ、本当かよと思っているうちに藤田対ミルコが実現してしまいました。さすがは猪木ですが、対する石井館長もさすがでした。K−1は空手にプロレスの要素を取り入れたものです。興行的な戦略もプロレスのいい所を積極的に取り入れているように思います。結果としてK−1は格闘技界における大きなムーブメントとなりました。藤田がミルコに負けたのはショックでしたが、結果としてそれが猪木軍対K−1をより大きなムーブメントにしました。
 打撃かサブミッションかというのは格闘技の永遠のテーマです。一撃必殺の打撃を持った選手と、捕まえれば必ず関節を極められる選手が闘ったらどうなるのか?どちらが勝つのか?とても興味があります。今回の試合でもいろいろな形がありました。ルールの難しさも痛感しました。1R3分では引き分けが増えるのは仕方ないところではないでしょうか。それでも敢えて闘うことに意義があります。初めはK−1にとってこの闘いは何かメリットがあるのだろうかと思っていましたが、実際に闘った選手は大きく成長したと思います。
 さて、試合の方に移りましょう。第1試合が高田対バンナでした。高田にはこれまで何度、裏切られたことか。確かに一人の格闘家としては好きなように闘えばいいのですが、高田のこれまでの歩みを考えればプロレスの代表として見られるのも事実です。内容も結果も残してもらわなければ困ります。正直言って、もう出てきてくれるなという気持ちもありました。でも、師匠である猪木のイベントに参加するのは最後のチャンスだから怪我を押して出たいという気持ちには男気を感じずにはいられませんでした。結局、ほとんど何もしないままのドローに終わり、ブーイングの嵐でしたが、あのベルナルドでも同じくまったく出て来れなかったのは意外でした。高田という生き方にはいろいろな意見がありますが、遂に本人があと1試合と表明しました。どう決着をつけるのか見守りたいと思います。
 第2試合の佐竹も、正直言って出てくるなよの1人でした。それでも苦境にあった猪木軍に名乗りを上げた心意気はやはり買ってやりたいという気がします。グレコを相手にして健闘したと思います。ただこれから総合格闘技でやっていくなら、打撃以外の技術をもっと身につけないと厳しいでしょう。
 第3試合はグッドリッジと、レネ・ローゼが欠場で急きょブラガの対戦となり、猪木軍対K−1とは違うんじゃないかという試合になってしまいました。これも決めてに欠けてドローとなりました。
 そして第4試合に石澤が登場しました。ここらでスカッとした勝利が見たかったのですが、攻めてはいたものの極められず、4試合連続のドローとなってしまいました。プロレスでは自由自在に関節技を駆使するカシンがなぜ極められないのか不思議でなりませんでした。準備不足もあったでしょうし、プレッシャーもあったでしょう。ハイアンへのリベンジ戦ほど闘いのモチベーションも上がっていなかったと思います。それでも石澤は出た以上は勝たなければいけない選手だったと思います。
 第5試合はフライ対アビディ。外人同士ということもあり、結果はどうでもいいからいい試合を見せてくれという気持ちでした。そしてフライががむしゃらに前に出て、ようやくかみ合った試合になりました。勝ったフライはもちろん、負けたアビディも素晴らしかったと思います。結果的にこの1勝が猪木軍の勝ち越しにつながったわけで、あまりこだわっていなかったこの勝利が実はとても大きかったと思います。
 そしてセミの永田対ミルコです。今回最も期待していたのがこの試合でした。しかし、結果は永田の惨敗でした。永田は逃げるでもなく、近づくでもなく、危ない距離にいるなと思っている矢先にいきなりのKOでした。止めるのが早かった気もしますが、ミルコのキックでぶっ倒れたことは紛れもない事実です。永田は出場した勇気を称えるというレベルの選手ではありません。相手も今やプロレスラーキラーとまで言われるプロレスの外敵です。出た以上は結果を残さなければなりませんでした。しかし、残ったのは最悪の結果でした。
 これで相当落ち込んでしまいました。まさか安田がバンナに勝てるとは夢にも思いませんでしたから、しかし、安田入場時の会場の雰囲気、そして入場してくる安田の顔つきを見たら、期待感が膨らみました。この時の安田は本当にいい顔をしていました。会場の雰囲気も最高でした。そして安田はしゃにむに前に出て、あまり格好良くはなかったけれど、バンナに勝ってしまいました。この安田勝利の瞬間がすべてでした。本当に感動的な一瞬でした。この試合を見ると、最後は技術云々じゃなくて気持ちなんだなと感じました。安田の勝利に対する執念はこの日一番だったでしょう。対するバンナのモチベーションが高かったとは思えません。安田はマルコ・ファスのもとで特訓を積んだということでしたが、どこまでその成果が出せたでしょうか。あの突進は昔から身に付いている相撲そのものだったような気がします。安田の勝利への執念が起こした奇跡でした。プロレスファンにとって2001年はあまりいい年ではなかったような気がします。しかし、安田のおかげで最高の気分で年を越すことが出来ました。安田に対する感謝の気持ちでいっぱいです。
 もう一つ、このイベントでは猪木の存在の大きさを改めて感じました。猪木がいなければあり得なかったイベントです。テレビ中継は紅白の裏で14.9%を記録し、他の民放に圧勝しました。プロレスファンの人以外にもこのイベントは充分認知されていました。こんな凄いレスラーはもう二度と出て来ないんでしょうね。
 祭りは終わったわけですが、宿題も残っています。ミルコの株はますます上がりました。誰かが止めなければなりません。惨敗を喫した永田もこのまま終わってもらっては困ります。不出場の道を選んだ小川直也も宿題を抱えてしまったといえるでしょう。出場して欲しかったとは思いますが、それはあくまで本人の問題です。今後、出なかったことをマイナスではなくプラスにしていけばいいわけです。同じく怪我のため欠場となった藤田もいづれはこの闘いの舞台に出て来なければならないでしょう。
 次のビッグイベントは永田と小川も出場する新日ドーム大会です。どんな闘いを見せてくえれるのか。増刊号でお届けします。