Vol.85 Wー1、PRIDE.23


 武藤のいうファンタジー・プロレスというのは分かります。プロレスの持つエンターテイメント性も否定はしません。むしろプロレスの大きな魅力であると思います。ただ、ファンタジーと茶番は違うよというのがW−1を観ての感想です。
 フジテレビの放送の中で武藤と石井館長との対談から開催が明らかになったW−1ですが、その後、蝶野や橋本のインタビューを流したり、猪木の批判まで放映いたり、ムタ対サップが決まったり、この時点ではかなりの期待感がありました。チケットも売れているという情報が入って来ました。しかし、一向に追加カードが発表されず、ようやく3日ほど前に発表されたカードも謎のメンバーが入っており、期待ほどのものではありませんでした。実際、客席には空席も結構ありました。興行的にも決して満足できるものではありませんでした。
 第1試合は佐竹対ブッチャー。これは本当にお粗末でした。まさに茶番です。佐竹はプロレスもどきのことをしていましたが、まったくセンスなし。ブッチャーもかつての凄みは完全に失われています。観客に声援を求めたり、拍手に応えるブッチャーなど見たくありません。ブッチャーには最悪のヒールでいて欲しかったし、それが出来なくなったのなら姿を現さないでいて欲しかったです。
 第2試合はカシン&宇野薫対ラ・パルカ&スペル・パルカ。パルカの2人は全身タイツに骸骨の模様が描かれたルチャ系のレスラーでした。試合開始と同時に場内が暗転し、暗闇の中で夜光の骸骨が暴れるというオープニング。続いてカシン組が反撃し、再び暗転して、明るくなるとマスクマンだった宇野薫が素顔になっているという演出がありました。パルカは時折ルチャ特有のおっと思わせる動きもあり、宇野の格闘センスの良さには光るものがありましたが、逆にカシンの魅力が半減し、全体的にはドタバタとした内容でした。
 第3試合はケア&ハヤシ対ドス・カラスJr&サム・グレコ。グレコも最初はマスクを被っていましたが、これはまったく不要な演出でした。グレコはそこそこプロレスをしていましたが、やはりK−1で戦っていた頃の魅力がまったくありませんでした。最後のカラスJrのジャーマンは素晴らしかったです。
 第4試合は小島&馳対コールマン&ランデルマン。コールマン&ランデルマンの肉体、身体能力、たたずまいは充分プロとして金の取れるものでした。ようやく雰囲気が少し引き締まった気がしました。ただ、小島の例の攻撃の時に、オーロラビジョンに「行っちゃうぞ、馬鹿やろう」と表示された演出は私にとっては不要なものでした。
 第5試合の橋本対デンプシーの前に、クラッシュが流れ、蝶野がリングに上がりました。この時がこの日の一番の盛り上がりでした。蝶野の「新日本が一番だ」というアピールは良かったです。闘魂三銃士が勢ぞろいしたことが、W−1の最大のポイントだったと思います。結局違う道を歩むことになった彼らですが、それぞれが一国一城の主となり、再び集結することでこれだけの注目を集められるようになったというのはいいことだと思います。いづれ最高のタイミングで再び彼らが同じリングで戦ってくれることを願います。
 橋本対デンプシーは、橋本らしい試合で、この日の雰囲気とはかけ離れていましたが、私としては橋本の試合の方が断然良かったです。垂直落下DDTは久しぶりに見ましたが、やはり説得力充分の技でした。
 セミはゴールドバーグ対リック・スタイナー。ゴールドバーグは飛行機を乗り継いで当日到着する予定で、間に合うかどうか分からないという設定。「あと5分ほどで到着する模様です」というアナウンスが流れ、オーロラビジョンに会場入り口で待ち受けるレポーターが写し出されました。そこへリムジンに乗ったゴールドバーグが登場。そのまま会場入りする様子が流されました。この演出は実に良かったです。ゴールドバーグは本物のアメリカン・ヒーローで何ともいえず様になっていました。日本のプロレスはアメリカのプロレスなどより数段上のものだと思っていましたが、最近のWWEブームや、この日の前半戦とゴールドバーグを比較すると、まだまだアメリカン・プロレスに適わない部分もあるというのを実感します。初来日時には出なかったジャック・ハマーも遂に見られ、大満足の試合でした。
 メインはムタ対サップ。サップはダンサーの女性に囲まれ、踊りながら登場しましたが、この男のキャラクターは何でもあり。ムタは場内たかれたスモークが消えると、すっとリングに立っているという登場でしたが、こちらも何でもありのキャラクターです。ムタの毒霧、シャイニング・ウイザード、ムーンサルトを返された時点で勝負ありでした。サップはそれなりの動きを見せていましたが、ムタのキャラクターも強く、今までほどのインパクトは残せず、試合としてはイマイチでした。最近のムタのメイクは技術的には以前より数段向上しているのでしょうが、以前のような格好よさ、夢が感じられません。
 全体的にはもっと派手で無駄な演出が多く、ダラダラと長時間やるのではないかと思っていましたが、意外とテンポはよく、無駄のない進行で、終了時間も早くホッとしました。最後にリングの上から幕が下り、オーロラビジョンで本日の出場選手が紹介され、最後に何かあるのかと思われながら何もなかったエンディングはいただけませんでした。
 いづれにしても、まったく新しい興行だったことは事実です。すぐに完成されたものが出せるわけでもないでしょう。早くも来年の1月19日に東京ドームで第2回の開催が決まりました。 闘魂三銃士の再会という夢につながる動きもありました。もっともっと素晴らしイベントになることを期待しています。
 それからテレビ中継ですが、フジテレビが夜7時から1時間枠で放送しました。ゴールデンタイムでの放送は素晴らしいことですが、内容については遊び過ぎだったと思います。
 続いては総合格闘技のビッグイベント「PRIDE23」東京ドーム大会です。高田の発言には何度も裏切られ、さすがに愛想もつきましたが、昨年末の猪木祭り、最後だからとにケガを押して出場した心意気に免じて最後の試合は見届けてやろうと思いました。実際、ヒクソンに敗れたことはとても許すことの出来ない罪ですが、それなりに思い入れもあったレスラーではあります。
 UWFファンはそれなりに感動したようでしたが、私はUWFには何の思い入れもなく、むしろUWFというムーブメントには否定的です。このイベントではUWFはやはりとうの昔に終わっていたのだなと再認識しました。UWFは今の総合格闘技ブームのステップではなくて、単なる回り道だったような気がします。
 高田の試合は、最後の田村の右フックは見事にカウンターで決まっており、後でビデオで見れば説得力のあるフィニッシュだったのですが、リアルタイムではよく分かりませんでした。あれ何?という感じで終わってしまったという感じでした。メインの桜庭の試合も最低の内容でした。あまりに長い興行だったこともあり、試合中に席を立つ人がかなりいました。帰られても当然の内容でした。
 良かったのは、やはり吉田です。圧倒的な強さを見せてくれました。それからヒョードルも、あのヒーリングを圧倒して、その強さを強烈にアピールしました。シウバ、ランデルマンも能力の高さを見せつけました。逆に山本、金原のUインター勢はいいところなしでした。
 全体的な印象はとにかく長過ぎです。5時開始で当然のように開始時間は遅れ、休憩時間も予定より長く、終わったのが10時半と5時間以上の興行でした。いつものことながら、もう少し早く進行できるように考えて欲しいです。