Vol.94 予定調和のG1


 夏の一大イベントといえば文句なく新日のG1でした。第1回大会の出場メンバーは藤波、長州の両エースに、ベイダー、ノートン、ビガロの外人トップ3、そして闘魂三銃士として売り出し中の武藤、橋本、蝶野。まさに当時の新日本のトップ中のトップ選手が総当たりリーグ戦を行うということで大変なインパクトでした。予想に反して若い闘魂三銃士が藤波、長州を撃破して決勝に進出。中でも一番の伏兵だった蝶野が優勝という結果も、まさに時代が変わるという歴史的な瞬間でした。それから13年、G1は当時の輝きを徐々に失い、今やあの時の感動のかけらも残っていないと私には思えます。
 今年はG1開幕戦と同日にPRIDEミドル級GPが開催されました。話題性では、G1は完全に負けていたと思います。桜庭対シウバに吉田対田村、ミルコ、ヒョードル、ノゲイラのヘビー級トップ3も出場という対戦カードのインパクトも絶大でした。
 結果は桜庭がKO負け、田村がギブアップ負けとプロレスファンにはまたも悲しい結末になってしまいました。田村がプロレスラーとは思えませんが、桜庭にしても田村にしても、勝利に対する貪欲さというのが欠けているのではないかと思います。あのシウバに対して、距離はとっているとはいえ、ノーガードでパンチを打ち合うという戦法はどうかと思いますし、田村も徹底的にローキックでいけば勝機はあったと思います。桜庭は前回の負けで2連敗ですから、本来ならばもう終わりなのですが、今回の負けで、どんなにひいき目に見ても完全に終わってしまいましたが、ファン、マスコミ、関係者はまったくそんな気はないようです。レスラーだけでなく、プロレスを取り巻く、そういう甘い考えがレスラーが総合格闘技で勝てない最大の理由だと思います。グレイシー一族のなり振り構わない勝利に対する執念は、決して汚いことではなく、見習わなければならないことだと思います。
 話しをG1に戻します。出場メンバーはかなり小粒で、ノアの秋山&高山頼りということで、今年もまた色あせたなと思いました。惰性で優勝戦を観に行っただけです。ところが、マスコミの報道では連日超満員とのことで本当かよと思っていましたが、実際に優勝戦の両国国技館に行ってみると、ここ数年にはなかったような賑わいをみせていました。
 かつてプロレス的なものを排除したUWFが人気を誇っていた頃、その裏では実にプロレス的な大仁田率いるFMWが人気を集めていました。今、総合格闘技ブームの中、プロレスが押されていると思いきや、やはりプロレスの持つ魅力というのは決して忘れられないものなのだろうかとも思えますが、プロレスが最強の格闘技という幻想を抱かせてもらえていた私たちの世代には非常に切ない現状であり、キング・オブ・スポーツを掲げる新日本にとっては実に難しい時代になったなという感じです。
 始まる前から今年は天山が優勝という予想でしたが、開幕2連敗した時点で、ここから盛り返して優勝という思いは確信になりました。準決勝の組合せは永田の変わりに安田が出るかと思いましたが、それ意外はすべて予想通りでした。最も注目の蝶野対秋山は予想通り時間切れ引き分け。準決勝で秋山対永田が実現しましたが、つい最近、永田が勝っていますし、ご丁寧に準決勝進出決定戦を1試合やるというハンデまでつけて予想通りに秋山の勝ちとなりました。秋山、高山はリーグ戦1位で決勝トーナメント進出ということで面目が立ち、天山対秋山はトータルすれば1勝1敗。最近精彩を欠いていた天山が、後ろ髪を切り、コスチュームも一新して、復活の優勝で、めでたしめでたし。まさに予定調和の世界でした。
 さらに、シャムロックの代打出場に一度は村上が決まったものの、総合ルール、K−1ルールで連敗している中西が何ごともなかったかのように復帰してゴリ押し出場。それを発端に魔界倶楽部の乱入、試合放棄、仲間割れのおまけつき。一体どこに闘いがあったのでしょう。
 そんな中、注目の出来事は、優勝戦をヒクソンが観戦したことです。プロレスと総合格闘技は闘いの質がまったく違うというのは分かります。プロレスのみが持つ楽しさ、面白さも理解しています。しかし、私にはやはり、まず根底に強さありきです。プロレスラーがヒクソンを倒さなければプロレスの復権はないと思います。そしてそれはやはり新日本の仕事だと思います。新日本がその仕事を怠っていたから、プロレスが駄目になったのです。ヒクソンが新日のリングに現れたからといって、すぐに対戦ということではないでしょうが、私にはかすかな一条の光に感じられました。