Vol.99 泣き虫


 「泣き虫」読みました。私は、ある組織にいた人が出て行った後で内幕を公開するということが大嫌いです。組織に属していれば、嫌な面は当然、見えてしまうわけで、それを変えるという努力をせずに、辞めることを選んでおいて、後になってああだこうだ言うのは卑怯だと思います。ましてそれを本にして金儲けをするなど最低の人間がすることです。そんな人に印税を払ってあげる気はまったくありません。だから暴露本の類は一切買いません。高田の本も暴露本と言われていたので買う気はありませんでしたが、たまたま知り合いから借りられたので読んでみました。
 別に大騒ぎするような内容ではなかったと思います。プロレスは勝ち負けが決まっているといったことを述べている部分が何回かありましたが、後はただ高田がヒクソンに負けた言い訳をたらたらとしているだけでした。ミスター高橋の暴露本のときも借りて読んで、別にどうということはないのに、何でこんなに騒ぐのだろうと思いましたが、この本もまったく同じ感想でした。高田やミスター高橋の本がすべて正しくて、現役のプロレスラーはすべて嘘をついているというわけでは決してありません。どちらの本も自分に都合よく書かれている部分が多々あります。プロレスファンの人たちは、プロレスを極めることもできずに辞めていった人間がまた馬鹿なことを言ってるよくらいの気持ちでいればいいと思います。世間に対してプロレスのイメージダウンになるという危惧はありますが、既に高田のせいで計り知れないほどイメージダウウンをしていますから、今さら騒いでも仕方ありません。
 長年プロレスを見てきて、形式上どちらが勝つかあらかじめ決まっているという気はします。真実は知りませんし、知りたいとも思いませんが。それでもすべての試合がそうだというわけではないでしょうし、決まりが守られないことも実際にあるでしょう。あくまでも形式上のことです。
 プロレスの本当の勝敗は形式上の勝ち負けではありません。もっと次元の違う闘いなのです。お互いの生き様を賭けた闘いなのです。プロレスラーは、ただお互いが平等になるようにルールを決めて競い合うゲームのようなスポーツより遥かに上の次元の闘いをしています。相手の生き様をすべて受け止めるために体を鍛え、自分の生き様をぶつけるために技を磨いているのです。その生き様と鍛え抜いた肉体で、多くの観客を魅了しているのです。だからプロレスラーは間違いなく強いのです。プロレスラーもプロレスファンも、もっと堂々と構えていればいいと思います。
 ただ最近のプロレスは堂々と強いと言えない状況にあります。一つは総合格闘技の試合で、プロレスラーが負け続けていることが原因です。プロレスは投げ、打撃、関節、すべての技があるから格闘技の中で一番強いというのがプロレス最強神話でした。アントニオ猪木と新日本プロレスが体を張って、その神話を作りあげました。あくまでも神話でした。そもそも強いというのはどういうことなのか、レスラーの強さとボクサーの強さはどちらが強いのか、そんなものに答えがあるわけはありません。異種格闘技戦というのは野球とサッカーのどちらが強いか競うようなもので、実は馬鹿げたものでした。猪木は、その馬鹿げたものに命を賭けてプロレス最強神話を作り上げたのです。馬鹿だけど、とても素晴らしいことだったと思います。
 しかし、総合格闘技なるものが出現し、何でもありで試合をすれば平等で、そちらが強いかはっきりするというまやかしがはびこってしまいました。実際にプロレスラーが敗れました。総合格闘技は決して平等ではありません。総合格闘技のルールのベースは言うまでもなく、グレイシー柔術のルールです。プロレスラーにとっては非常に不利なルールです。それをあたかも平等なように思わせ、最強神話を作り上げたのが、グレイシー一族です。これもあくまで神話です。本当にグレイシー一族が最強で、プロレスラーが弱いわけではありません。ただそうい神話を作り上げただけです。それでも最強神話を作り上げた彼らは、プロレス最強神話を作りあげた猪木と同じく、素晴らしいと思います。逆に、覚悟もなく無策で彼らの土俵に上がるレスラーが駄目 なのです。
 あくまで神話ですから、実際に闘って勝つだけがプロレス最強神話を取り戻す方法ではないと思います。ただここまで借りを作ってしまったら、実際に勝たないと厳しいでしょう。実際に負けてしまったプロレスラーが悪いのですが、やはりこうした外敵を叩くのは新日本プロレスの仕事だと思います。いわゆるU系のレスラーが総合格闘技で負けているとき、新日本は知らんぷりを決め込んでいました。本来なら、真っ先に新日本が彼らを叩くべきでした。そうしなかったのが新日本の低迷につながり、プロレスの低迷につながったのです。
 ようやく中邑というレスラーが現れました。まだまだ実力不足ですが、彼の姿勢には賛同できます。イグナショフ戦で、決して負けを認めなかった新日本のフロントの姿勢も評価できます。プロレスが低迷を脱するには中邑でも他の人でもいいですから、実際に総合格闘技の試合でレスラーの強さを示すことが絶対に必要です。
 もう一方で、最近のプロレスには生き様と生き様を賭けた闘いというものが感じられないというのがあります。レスラーは、ただいい試合、観客が観ていて面白い試合をすればいいと思っているように感じます。猪木や新間寿が最近のプロレスには闘いがないと言い、永田たちが反論するギャップがここにあると思います。総合格闘技には出ていかず、プロレスの試合で勝負するというのなら、次元の違う本当の闘いを見せて欲しいと思います。
 最近のプロレスで期待していたのは、新日本よりも橋本と小川のZERO−ONEでした。しかし、例のハッスル1では、期待はずれというより、やはりという感じでしたが、失態を演じました。あんなプロレスごっこに付き合って、高田なんかを引っ張り出したところでプロレスの強さが証明できるはずがありません。ハッスルからは撤退すべきだと思います。ZERO−ONEは2月29日に両国大会があります。橋本と長州は一騎打ちするのだか、しないのだかはっきりしない状況です。昨年12月の両国もそうでしたが、こうした昔なからの興行的な手法も止めて欲しいと思います。とにかく橋本と長州の遺恨をリングの上で闘いとして表現し、橋本がきっちりと長州を叩きつぶせば、プロレスの強さを多少は証明できるのではないでしょうか。
 純プロレスの代表のようになっているノアも、東京ド−ム進出を目指しています。ヒョードルに惨敗した永田がGHCタッグ王座から転落し、撤退したのは明るい材料です。永田にチャンピオンを名乗る資格はありません。小橋対ボブ・サップが現実味を帯びてきたという話しもあります。この2人の試合ならプロレスの強さを見せてくれるという期待が持てます。
 最後に、話しは変わりますが、2.7のWWEを観戦しに行きます。ようやくチケットが取れて、非常に楽しみにしています。日本とアメリカの文化の違いがあるので、まったく異質なものになっていますが、WWEはWWEなりの本当の闘いを見せてくれるという気がします。昔は日本のプロレスはアメリカのプロレスより数段上だと思っていましたが、現状はというとWWEに負けているという気がします。アメリカはショービジネスの国、日本人の心の根底には武道の精神があります。WWEが本物のショーを見せてくれるように、日本のプロレスが本当の闘いを見せてくれることを期待します。