Vol.25 総合格闘技


 現在の格闘技界には、大きな二つの流れがあります。一つはプロ化、そしてもう一つは総合格闘技です。
 まず、プロ化ですが、この中心がK−1です。空手を興行として成り立たせる。空手を観客に見せて、収入を得るというものがK−1です。正道会館の石井館長の手腕は素晴らしい限りです。フジテレビのバックアップも大きいと思いますが、彼の優れたプロデュース感覚がなければ、この大ブームは起こらなかったでしょう。
 K−1にはもう一つの側面があります。いわば立ち技限定の総合格闘技といったもので、空手、キックボクシング、ムエタイ、テコンドーなど、様々なジャンルの格闘家がK−1のリングに上がっています。遂に極真の世界王者であるフィリオまでがK−1のリングに立ちました。これまで空手家が試合をして食べていくことができる場がなかったので、それが可能になるK−1のリングに立つのだと思います。
 K−1が従来の空手と違っているのは、グローブの着用によって顔面への拳攻撃を認めたことです。これは明らかに試合を見せるということを考えたものです。選手の安全を保護しつつ、見る者にスリルを与える。このためには顔面への攻撃、グローブの着用が必要不可欠だったのだと思います。
 もう一つの大きな流れである総合格闘技は、立ち技だけでなく、あらゆる格闘技が統一ルールのもとで戦うというものです。これはアントニオ猪木の一連の異種格闘技路線が原点となっています。プロレスのチャンピオンと空手のチャンピオンはどちらが強いのか。柔道とキックボクシングではどうなのか。ファンが素朴に思うことを実現させるものです。そしてUWFの誕生で、総合格闘技という流れが一気に動きだしました。
 プロレスには、投げ、関節、打撃とあらゆる要素が詰まっていて、もともと総合格闘技の側面を持っていました。ですからUWFの誕生は自然なことといえるかもしれません。そしてUWFを退団した佐山がシューティングという新しい格闘技を設立し、シーザー武士のシュートボクシング、西良成の慧舟会などが続いたことで、格闘技界全体の大きな流となりました。
 ここで問題になるのは統一ルールです。異種格闘技戦でも、ルールが問題になりますし、決まったルールによっては不公平なものになってしまいます。UWFや、そこから派生したリングス、パンクラスといった、いわゆるU系の団体も試行錯誤を続けています。
 そこへ、文字通り究極の格闘技が現れました。アルティメット大会であり、グレイシー柔術です。禁止されているのは目つぶしとかみつくことぐらい。素手で顔面を殴ってもいいし、首を締めてもいい。ロープブレークもなし、相手が戦闘不能になれが勝ちというものです。これならば文句のつけようがないはずです。格闘技をとことん突き詰めれば、ここに行き着くでしょう。登場したときは衝撃的でしたが、考えてみれば、当然 の結論という気がします。
 グレイシー柔術が世に出たのは、アメリカで行われたアルティメット大会がペイパービューで放送され、話題を集めたからです。つまり、これもプロの興行だったということです。
 さて、ここでファンとして問題になるのは、お金を出しても見たいのかということです。アルティメット大会は、最初こそ衝撃的でしたが、今ではあんな野蛮なものは見たくないという気持ちの方が強いです。ヒクソンの持っている技術というのは見るに値する素晴らしいものです。しかし、他の街の喧嘩屋上がりなどの試合には、お金を払って見る価値があるとは思えません。ヒクソンの技術にしても、実は高度過ぎて、私たち素人に理解できるものではありません。ヒクソン対高田戦で、ヒクソンは腕ひしぎに行く時、高田にガードされて、逆に自分が不利な態勢になる場合を考えて、ラウンド終了間際まで待っていたそうですが、そんなことに気づいた人はほとんどいなかったと思います。
 K−1にしても、KOで決まるから面白いのであって、しかも一撃必殺の威力を持った大きな選手ばかりなので、番狂わせがあるというのも魅力となっています。しかし、こう着状態で判定になった場合など、かなり退屈します。アクシデントで試合が終わってしまうのも欲求不満です。
 格闘技は、突き詰めれば、限りなく殴り合いに近づき、興行として成立させようとすれば、ゲームに近づいて行くという気がします。格闘技の魅力を最大限に出し、プロの興行として観客に見せることの両立は難しいと思います。
 そこでプロレスですが、興行スポーツとしては最高に面白いものだと思います。世間にはいろいろ言われることもありますが、プロレスラーは実際に人並み外れて強いし、試合は、決して喧嘩ではありませんが、真剣にすべてを賭けて闘っています。
 今の格闘技界で、プロレスは総合格闘技という流れから外れた所に位置してにいるように思われます。理屈抜きで、面白いからいい。そういう雰囲気を感じます。高田がヒクソンに敗れても、プロレス界にそれ程ショックが感じられないのは、プロレスは面白い。グレイシー柔術はつまらない。という考えに基づいているように思います。
 それは確かに言えているとは思います。でも、やはり私にとっては、プロレスは最強の格闘技なのです。このままでは、どうしても納得がいきません。誰か何とかして下さい。