増刊号 4.4昭和プロレス最後の宴


 平成4年4月4日午後4時。アントニオ猪木の引退興行が行われました。猪木信者の私としては、猪木の最後の試合を見届けるというだけでも良かった興行ですが、プロレスファンとしては他にも注目の試合がありました。猪木関係のことは「A猪木ホームページ」を見ていただくとして、ここではその他のことについて触れたいと思います。
 昭和プロレス、平成プロレスという分け方があります。昭和プロレスのファンは今のプロレスはつまらないと嘆き、会場から足が遠のいています。逆に平成プロレスファンの若者たちは今のプロレスを心からエンジョイしています。
 私は昭和プロレスの世代に属しますが、今だにプロレスを見ずににはいられず、頻繁に会場に足を運んでいます。確かにファン層は10年前と今ではまったく違っていると思います。今のレスラーにも、会場の雰囲気にも物足りなさを感じます。でも、プロレスの本質は何も変わっていないと思います。昭和も平成もありません。テレビや雑誌だけ見て嘆いている昭和プロレスの皆さんも是非、会場に足を運んで下さい。心の目で生のプロレスを見れば、本質は変わっていないことが分かると思います。
 とはいえ、長州に続いて猪木も引退、そして前田までもとなれば、やはり今日だけは昭和プロレスを満喫したい。そこで注目されたのは藤波と西村でした。
 IWGPタッグ戦は、蝶野・武藤対橋本・西村。nWoは平成プロレスを代表するムーブメントで、新しいファンからは圧倒的な支持を受けていますが、オール・ドファンからは賛否両論です。私はnWoを支持しています。武藤、蝶野は確実にストロングスタイルのレスリングの基礎を持っているし、その上で自分流のセンスで行動し、無条件に格好いい。普段このカードなら王者組を応援しているところですが、この日ばかりは挑戦者組を応援しました。
 橋本は、以前自ら「闘魂伝承」を口にした通り、ファンにとっても新日本本流の流れを感じさせるレスラーです。このところnWoに押されて精彩を欠いているのが気になるところです。やはり猪木の存在というものは強烈過ぎて、少し距離を置いた方がいいのかもしれません。長州が猪木のもとから飛び出して、結局は常に猪木のもとにいた藤波を追い抜いて、新日本のトップに立ったように、猪木プロレスとはまったく違ったことをしているnWoが、現時点では橋本より輝いています。橋本は入場時、ガウンを脱ぎ、花道に置きました。するともう1枚のガウン、あの闘魂伝承ガウンが現れました。そのガウンも花道に丁寧に置きました。その意味はうまく言えませんが、橋本なりの意志表示を感じました。
 西村は、中西、小島、天山らと同世代。明日の新日本を担う存在です。身長があることと、正統派のテクニックで以前から期待していた選手ですが、ようやく最近注目を集めてきました。西村の主張には大いに同調できる部分があります。でも、まだまだ内容が伴っていません。この日も頑張りを見せる場面もありましたが、結局、nWoの前に敗れ去りました。前途は多難だと思いますが、西村には今の方向で頑張って欲しいと思います。
 そしてIWGPヘビー級選手権は健介対藤波です。何で藤波なの?という声もありました。しかし、私にとっては藤波以外には考えられませんでした。藤波もレスラー生命を賭けて挑むと宣言し、前哨戦でタッグを組んだ健介は試合後、藤波辰爾ってそんなもんかと叫びました。もう藤波を応援しないわけにはいきません。藤波があの懐かしいテーマ曲で入場すると、館内も藤波応援ムード一色になりました。藤波らしい試合展開。最後は秘かにドラゴン・スープレックスの復活を期待していたのですが、それは適わず、しかし、ジャーマンで藤波が勝利しました。まさに感動の瞬間でした。昭和プロレス最後の1人、王者となった藤波の今後の頑張りに期待します。
 7万人、超満員札止めの観衆はもちろんドーム新記録。さすが新日という大成功でした。1ケ月後には全日本が初のドーム進出を果たします。新日とはひと味違った興行になるはずです。馬場さんの手腕に期待します。さて、どうなることでしょうか。
Vol.29 みちプロ大田区大会に感動

 みちプロの大田区といえば、どうしてもメインでサスケと人生のシングルマッチが組まれ、人生が勝利した第1回大会を思い浮かべてしまいます。今や、伝説の大田区といわれる程で、ご存じの方も多いでしょう。私にとっても、今も心に残る感動の興行でした。
 第2回大会は、獅龍が海援隊に入る入らないでゴタゴタしていた頃、獅龍は正規軍サイドに加わった6人タッグで、ずっと正規軍とギクシャクしていた獅龍が、最後の最後にきっちりと仕事をしてくれたという試合で、それなりの感動はありました。
 しかし今回は・・・。サスケはいないし、正規軍が海援隊とタッグを組むという目新しさはあるものの、カード的にはイマイチで、あまり期待は出来ないというのが正直な気持ちでした。自由席だったので早めに会場に行ったこともありますが、試合開始前には会場もガラガラ。あーやっぱり駄目か、という感じでした。(最終的にはほぼ満員と言っていい入りになりました。)
 しかし、半蔵と瀬野の5分間のエキジビジョン・マッチの後に行われた浪花・ヨネ対星川・薬師寺の第1試合が素晴らしい試合でした。星川と薬師寺の大健闘で20分時間切れのドロー。延長コールなどまったく起きようのない納得の内容でした。続く第2試合はバトラーツと大日本の混合タッグで、みちプロの選手層の薄さを感じさせられ、少し寂しい気がしました。そして浜田対タイガーは、少し唐突という感じでタイガーが敗れてしまい、テンションが落ちた気がしましたが、メインは期待以上の好勝負になりました。
 デルフィン・テイオー対人生・船木。過去の因縁を考えれば、信じられないカードです。海援隊のWWF入りが決まって、リング上で正規軍と握手を交わしたことを受けて実現したカードでした。心配だったデルフィンとテイオーのコンビネーションも見事に決まって、最高の盛り上がりとなりました。最後もテイオーのアシストを受けて、デルフィンが勝利。最高のハッピーエンドとなりました。
 実は、個人的にはテイオーは大嫌いな選手だったのです。実力もないくせにチャラチャラしやがってと思っていました。実際に東北まで遠征して生のファイトを見て、実力があることは分かりましたが、とにかく、海援隊は憎たらしかったので嫌いでした。でも、この試合ですっかりファンになってしまいました。
 そして一番の感動は試合後でした。デルフィンの呼びかけで全選手、全スタッフがリングに上がり、マイクで海援隊に贈る言葉を述べました。日本語が話せないというふれこみのヨネも、意味不明ながら言葉を発し、最後は人生も語りました。テイオーと船木も必ずみちのくに帰って来ることを誓い、感動のフィナーレとなりました。
 私は年に何十回も興行を観ていますが、本当に感動できる興行というのは数える程です。しかし、プロレスは生で観てこそのものだと思います。何十回も観ているからこそほんの何回かの感動が味わえるのだと思います。活字プロレスファンのみなさんも是非会場に足を運んで下さい。
 それからもう1つ感じたことは、今度の海援隊ようなケースは、プロ野球の野茂が大リーグに行ったときと同じだと思うのですが、球団やコミッショナーは野茂をまるで悪者であるかのように扱いました。これだけ暖かく送り出してあげられるプロレス界は、コミッショナー制度など、プロ野球に劣っていることは事実ですが、でも、やっぱりプロレス界は素晴らしいということです。